学科長のご挨拶

「ICT教育」へのアプローチ

創造表現学科:首領 福原 正行

今年度、学科二期生にあたる卒業生を送り出す創造表現学科は、 情報化(して行く)社会のまっただ中にあって、いかなる学生をどのように教育し、何を目指して 社会に送り届けるかをテーマに、従来の文学部・人文教育の範疇に止まらない、新たな教育的取り組みを 模索することとなった。
それは学科の起ち上がる頃に盛んに議論された「リテラシー」の技術や能力の 錬成を超克し、「創造性」そのものを養成して行くような「自己発信能力」への期待、今日我々を取り巻く現実 が若い世代に要求する、より広範な「コミュニケーション」の可能性への意欲や努力の開発に他ならない。

まず第一に、「創造性」とは何か。それは与えられた現実や状況を所与のもの として甘受するのでなく、「問題意識を持って対象に能動的に関わり、そればかりでなく己をも主体的に変え 得る可能性」であると考える。環境としての外の現実ばかりでない、「内なる自己をもつくり変えて行く 〈Solution(問題解決)〉の発想は、クリエイターばかりに与えられた特権や能力ではない。
その為に学科では、変革への課題を求めて「在野」を目指す。企業や団体の 他あらゆるコミュニティが、ともに学生を教育の名の下に鍛え上げて行く連携のパートナーとなる。学生諸君 の「通念に囚われない斬新な発想」が、より新たな現実を生み出すのだが、そこで提案されるのが「プロジェクト」 である。多くの人々を巻き込んで「共有」されるプロジェクトには、精緻に練り上げられた「企画書」や 「(事業)計画書」等が必要だ。それは「コミュニケーションの為のツール」であり、それであるが故に提示と 論議の場としての「プレゼンテーション」を必要とする。より広範な「コミュニケーションの場」や「課題の共有」 を求めて、学生諸君の修養の完成に、従来のようなアカデミックな背景に終始する閉鎖的所産に過ぎない 「学術論文」を学生に強要するのは放棄しよう。現実社会に真に開かれた大学教育を目指すのなら、 選択肢はそれほど多くはない。

更に「情報技術」はパーソナル・コンピューターの活用に代表して理解されるが、 PCは確かに道具(ツール)にすぎない。しかし、道具にすぎないPCが、現在の我々にとって必須の コミュニケーション・ツールとなったのは言うまでもないが、我々の思考や感覚にまで構造的に影響を与える ほどに環境化していることを看過できないだろう。このことはPCに限らない、ケータイやスマートフォン、 タブレット端末一般を含め様々な視聴覚情報を網羅する情報端末は、既にかなり以前から我々の感覚器官の 先端であるばかりでなく電脳化する身体の部分以上の役割を占めるものになっている。しかもその事実は、 我々の従来の思考や発想の展開を飛躍的に開拓する可能性を開いていると理解される。またそれは、今日現在、 我が学科の視覚情報系及び身体表現系の学生諸君の課題研究や制作に向けての志向性や展開の現状を検証すれば 明らかなことであろう。

「拡張する身体(Augmented Body)」、創造表現学科の研究や制作が全体と して傾くメイン・ストリームは、その周辺に関わるテーマを巡って展開している。それは「空間」「動き」 「リズム」「速度」等をキーワードとするのを共通していて、それに「光」や「色彩」、「バランス」=「関係性」が 加わる場合もある。

以上、創造表現学科は「情報技術をコミュニケーション能力の修得の重要な エレメントと考え、それが拓く思考と感性の拡がりや無限の可能性を信頼し目指す。そのような不断の営みが、 覚醒して行く学生諸君の現実社会への「創造的関与(engagement)」を期待させるとともに、今現在の学科 学生諸君の動向や様態はそのことを確信させるに十分である。

2013.2.20.